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1ヵ月単位の変形労働時間制の適用について~弁護士が回答!Q&A~

2024.06.21

執筆坂本志乃

Question.
当社は1ヵ月単位の変形労働時間制を導入しており,スタッフはシフトで決まった時間に勤務しています。1ヵ月単位の変形労働時間制では,1ヵ月で設定できる労働時間に上限があることは把握しています。ただ,パート・アルバイト以外のスタッフには一律に月20時間分の固定残業代を支給していますので,固定残業時間数を含めて月のシフトを作成しても大丈夫でしょうか?

Answer.
1ヵ月単位の変形労働時間制の適用を受けるためには、「1ヵ月以内の変形期間内を平均して1週あたりの労働時間が週法定労働時間(週40時間又は44時間)を超えない」ことが必要です。
そのため、暦日数に応じた変形期間内の所定労働時間数の上限(法定労働時間の総枠)が決まっています。
この総枠を超えて変形期間内の所定労働時間を設定してしまうと、変形労働時間制が無効と判断されてしまうため、固定残業時間数を含めて月のシフトを作成することは避けていただく必要があります。

1.1ヵ月単位の変形労働時間制とは?

(1)1ヵ月単位の変形労働時間制とは、1ヵ月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以内となるように、労働日および労働日ごとの労働時間を設定することにより、労働時間が特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えたりすることが可能になる制度です(労働基準法第32条の2)。
(2)1ヵ月単位の変形労働時間制の適用を受けるためには、就業規則又は労使協定に以下の内容を定めて要件を満たす必要があります。

  1. ①対象者の範囲
  2. ②対象期間および起算日(対象期間は1ヵ月以内であることが必要)
  3. ③労働日および労働日ごとの労働時間の特定
  4. ④有効期間(労使協定の場合のみ)

③について、どの程度の特定が必要になるかというと、かなり厳格な特定が要求され、各週・各労働日について、始業終業時刻を具体的に定めることが必要となってきます。この要件を満たさない場合、1ヵ月単位の変形労働時間制は無効と判断されてしまいます。ただ、そうはいっても、シフトで業務を回している場合、1ヵ月の各週と各労働日の労働時間を事前に就業規則等で具体的に特定することは実際難しいものです。
そこで、シフトを作成する場合、就業規則等で以下の内容を定めたうえで、各労働日ごとのシフトは変形期間の開始前までに具体的に特定する運用も認められています。

  • 各勤務の始業、終業時刻
  • 各勤務の組み合わせの考え方
  • シフトの作成手続
  • シフトの周知方法

ここで注意が必要なのは、就業規則等で各勤務の始業、終業時刻、休憩時間として想定される全部のシフトを網羅的に定めておく必要があるという点です。
実際に、日本マクドナルド事件(名古屋地判令和4年10月26日、名古屋高判令和5年6月22日)では、就業規則にて各勤務シフトにおける各日の始業、終業時刻及び休憩時間について、「原則として」4つの勤務シフトを規定しているが、このような定めは就業規則で定めていない勤務シフトによる労働を認める余地を残すものであり、現に元社員が勤務していた店舗では店舗独自の勤務シフトを用いて勤務割りが作成されていたことから、会社が就業規則により確実、各週の労働時間を具体的に特定したものとはいえず、労基法第32条の2の「特定された週」または「特定された日」の要件を充足するものではないとして、1ヵ月単位の変形労働時間制を無効と判断しています。
(3)また、上述したように、「1ヵ月以内の変形期間内を平均して1週あたりの労働時間が週法定労働時間(週40時間又は44時間)を超えない」ことが必要です。そうすると、変形期間の暦日数によって法定労働時間の総枠(上限)は以下の時間数になります。

対象期間 法定労働時間の総枠
週40時間 週44時間
28日 160.0時間 176時間
29日 165.7時間 182.2時間
30日 171.4時間 188.5時間
31日 177.1時間 194.8時間

そのため、各月(変形期間)のシフトを作成する際は、暦日数に応じた法定労働時間の総枠の範囲に収める必要があります。なお、この法定労働時間の総枠を超える働き方が一律NGということではなく、事前に作成していたシフトが確定した後、残業が発生してしまうことは当然ありますので、時間外労働は当然に認められます。ここで問題にしているのでは、シフト作成時(確定時)に、法定労働時間の総枠を超えるシフトを組むことです。

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2.ダイレックス事件(長崎地判令和3年2月26日)

実際の裁判例でも、変形期間の法定労働時間の総枠を超えるシフト設定が問題になった事件として、ダイレックス事件があります。
この事件では、会社は1ヵ月単位の変形労働時間制を導入し、残業30時間を加えた勤務割(シフト)を組んでいました。就業規則では、以下の内容が定められています。

1 毎月1日を起算日とする1ヵ月単位の変形労働時間制とし、所定労働時間は1ヵ月を平均して40時間とします。
2 前項の規定による所定労働日、所定労働日ごとの始業及び終業時間は、事前に作成する稼働(シフト)計画表により通知します。

各店舗の店長は、店舗の全従業員分について、前月末ころ、翌月分の稼働計画表を掲示していました。しかし、同計画表では、当月の各日における出勤日と公休日の区別、出勤日について出社時間、退社時間、休憩時間が具体的に記載されているものの、設定された労働時間の合計は、1ヵ月の所定労働時間(1ヵ月の暦日数が31日の場合は177時間、30日の場合は171.25時間、29日の場合は165.5時間、28日の場合は160時間とされていた。)に、あらかじめ30時間が加算されたもの(1か月の暦日数が31日の場合は207時間、30日の場合は201.25時間、29日の場合は195.5時間、28日の場合は190時間)となっていました。
そこで、元社員が使用者に対して1ヵ月単位の変形労働時間制は無効だとして割増賃金の請求を行いました。
裁判所は、

変形労働時間制が有効であるためには、変形期間である1か月の平均労働時間が1週間当たり40時間以内でなければならない(労働基準法32条の2第1項、32条1項)。1か月の暦日数が31日の場合の労働時間は177.1時間である。

40÷7×31=177.14

~被告の稼働計画表では、原告の労働時間は、1か月の所定労働時間(1か月の暦日数が31日の場合は177時間などとされる。)にあらかじめ30時間が加算(1か月の暦日数が31日の場合は207時間など)されて定められているのであるから~、1か月の平均労働時間が1週間当たり40時間以内でなければならないとする法の定めを満たさない。

として、本件において、1ヵ月単位の変形労働時間制の適用を否定して、通常の労働時間制を前提に未払いの割増賃金の支払いが必要と判断しています。

3.まとめ

今回は1ヵ月単位の変形労働時間制について説明させて頂きました。裁判所は変形労働時間制の適用について厳格な判断をしているため、最初のアンサーにも記載したとおり、固定残業時間数を含めずに、法定労働時間の総枠の範囲でシフトを設定するようにしていきましょう。
変形労働時間制の制度設計にお悩みの場合は、労務管理に詳しい専門家にご相談することをお勧めします。

 

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